一年後の花嫁
「あれ、藤堂さん行かないんですか?」
「あぁ……ちょっと仕事溜まっててさ。披露宴の途中には顔出すつもり」
普通、担当プランナーは一度は顔を出すことになっているが、俺はなかなかそれができずにいた。
それもあのチャペルには。
行けそうにない。
本当に溜まった仕事を一つずつ片付けていると、あっという間に、お色直しの時間だ。
もうそろそろ行かなければ。
一段一段階段を上るたび、足取りが重くなる。
もし彼女が、幸せそうに笑っていたら。
なんて、最低なことが頭をよぎる。
「あぁ、藤堂さん。来てくださったんですね」
いち早く俺に気付いた新郎。
こういうときは、やっぱり愛想がいいんだよな。
「本日は、おめでとうございます。ご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」
「はは、全然大丈夫ですよ。仕事もあるのに、大変ですね」
「いやいや。……どうですか、披露宴は?」
「疲れますね~二次会はやらなくて正解でした」
かちん、ときたものの、俺が彼に強く言える立場ではない。
職業上の立場としても、男としても。
「そうですよね。段取りも多いですし」
適当に話を合わせるのは、以前ほど苦ではなかった。
それは自分が、精神的優位に立っているからなのだろうか。
「藤堂、さん!」
ぎこちない呼び方。
振り返ったそこにいた長妻は、朱色の華やかな色打掛に身を包み、艶やかそのものであった。
「加藤様。本日はおめでとうございます。大変よく似合っておられます」
「ありがとうございます」
昨日、何度も確かめ合った想い。
それがずっと脳裏にあるのに、それでもやっぱり。
あの男と並んだ姿は、俺の不安を駆りたてた。