一年後の花嫁
まず最初に蒲田のことを詫びて、そのあと、今後のスケジュールをお話ししよう。
幸いにも川島様・加藤様は先日ご契約されたばかりで、挙式までは半年以上時間があった。
今日は初回のご説明のみで、通常の打ち合わせの半分の時間で済みそうだ。
「大変お待たせいたしました。私、藤堂と申します。今回より挙式までの間、蒲田に代わって川島様・加藤様のお手伝いをさせていただくことになりました」
「ああ、そうですか。よろしくお願いいたします」
担当が変わることを、さほど気にする様子のない新郎の川島様は、銀色のシャープな眼鏡のせいか、それとも明らかな作り笑いのせいか、いささかきつい印象を受けた。
あれやこれやと理由を考えていたが、あっさり了承してくださって、拍子抜けだ。
その奥に座る新婦の加藤様は、目をぱっちり見開いて、俺の顔を凝視していた。
俺はそれに、不思議な感覚を覚えていた。
ある日テレビで見た俳優を、別の番組で見て、何で見たんだっけ、と思い出せないときのような。
歯がゆいような、もぞもぞとうごめく、あの気持ち悪い感じ。
「蒲田からは、しっかり引き継いでおりますので、ご安心くださいませ。まず今日は、二月の挙式までの一連の流れを、ご説明させていただきたいと思っております」
その気持ち悪さを押し殺して、俺はこれからのスケジュールを予定通り、お二人に説明した。
「あの」
挙式四か月前から始まる打ち合わせについての説明中。
それまで頷くことすらなかった川島様が、口を開いた。
「この打ち合わせって、二人揃ってなくてもいいんですよね?私仕事が忙しいもので、こんなに頻繁に来れそうにないんです」
「……そうですね、そういった新郎新婦様も多くいらっしゃいます。ただ打ち合わせした内容は、お手数ですがお二人で共有していただく必要がございますので、その点はご協力ください」
「ああ、よかった。わかりました」
たしかにそういった新郎新婦様は、数多くいらっしゃる。
どちらかがサービス業だったりすれば、そういったことは珍しいことではない。
ただ、川島様の物言いはどこか他人事で、それに意見しない加藤様にも、なんだか違和感を覚えた。