一年後の花嫁
案の定、五回の打ち合わせの内容について説明している最中、川島様は手元でなにやらスマートフォンを忙しなく確認し、まるでこちらの話には無関心な様子だ。
しかし、プランナーにお二人の関係を指摘する権限は、もちろんない。
どのような形であっても、お二人を支援していくのが仕事だ。
「この衣装の予約って」
やるせない気持ちの中、初めて言葉を発した加藤様の声に、どくんと心臓が反応した。
記憶が気付いたらしい。
この声。知っていると。
目が合った瞬間、一つの疑惑が湧いた。
しかし、カルテにある新婦様のお名前。
加藤 美波。二月生まれの二十九歳。
俺の知っている二月生まれの二十九歳の“美波”とは、名字が違う。
髪型も、雰囲気も、違う。
だけど記憶は、知っていると、間違いないと訴えかけていた。
「――衣装の予約って、来月の頭頃にすれば大丈夫ですか?」
「……あ、あぁはい。そうですね。それくらいであれば、選べるものも多いかと存じます」
平然を装ったものの、心臓はバクバクと鼓動を速めていた。
「ほんの一部ですが、衣装のカタログ、持って参ります。恐れ入りますが、少々お待ちください」
まるで逃げるように。
ネクタイを締め直して、山辺様と桃田様のところへ向かう。
「あ、藤堂さん!これ、いいかなって今話してたんですけど」
そう、新郎新婦の顔ってこれのはずなんだ。
嬉々として、人生で初めての大がかりな仕事を、二人で協力し合う。
それが普通とまでは言わないが、あの二人は、恐らくそうはならない。
無線で衣装担当に連絡し、川島様・加藤様のご案内をお願いしたから、しばらくはここに居ることができる。
その間にちょっと落ち着こう。