神谷ナツカの虚空
公園の時計は午後8時53分を示していた。間に合ったようだ。はて、剱持はどこかと探しているとベンチに座っていた。
「今日でよかったのか?」
「…うん。」
「もしかして、昨日も、その前もずっと待ってたのか?」
「…うん。」
「で、なんで呼んだんだ?もしかして、寂しかったのか?」
まあ、違うだろうけど。
「…違う。こっち来て。」
やっぱり。俺は剱持に連れられて彼女の家に行った。いわゆるタワマンで、静かなエレベーターに乗り、部屋に着いた。部屋には1つこたつがあるだけでとても広く感じられた。
「で、何のようなんだ?」
「今日あなたに伝えたかったのは、私の神谷ナツカが普通の人間ではないということ。」
「まあ、ずっと本読んでるし、大体は想像ついてたよ。」
「そういう意味ではない。単に普遍的でなく遷移的だということでは無く、あなたのような一般的な人間ではないということ。そして、神谷ナツカが周りの生命体に対して大きな影響力を示すようになったため、今回伝えるという判断を下した。」
静かなやつが豹変し、いきなりしゃべりだしたな。ここ数時間の間に何があったんだ?
「私はこの銀河を統括する情報統合思念体により製造された対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス。」
うーん…。
「一般的に浸透した用語を使用して言語化すると、宇宙人。」
…え?
そしてまた彼女は彼女で無いかのように話し始めた。
「わたしの仕事は神谷ナツカを観察して、入手した情報を統合思念体に報告する事。」
…はあ。
「生み出されてから3年間、私はずっとそうして過ごしてきた。この3年間は特別な不確定要素がなく、いたって平穏だった。でも最近になって無視出来ないイレギュラー因子が涼宮ハルヒの周囲に現れた。そのイレギュラー因子があなた。」
…。
「情報統合思念体にとって銀河の辺境に位置するこの星系、太陽系の第3惑星に特別な価値などなかった。だが現有生命体が地球と呼称するこの惑星で進化した二足歩行動物に知性と呼ばれる思索能力が芽生えたことにより、その重要度は増大した。それは自分たちが陥っている自律進化の閉塞状態を打開する可能性がありかね無かったから。宇宙に偏在する有機生命体に意識が生じるのはありふれた現象だったが、高次の知性を持つまでに進化した例はこの惑星の人類が唯一だった。統合思念体は注意深くかつ綿密に観測を続けた。そして3年前、惑星表面で他では類を見ない異常な情報でのフレアを観測した。弓状列島、本州の一地域から噴出した情報爆発は瞬く間に惑星全土を覆い、惑星外空間に拡散した。その中心にいたのが神谷ナツカ。以後3年間、あらゆる角度から神谷ナツカという一個体に対し調査がなされた。しかし未だその正体は不明。それでも統合思念体の一部は、彼女こそ人類の、ひいては情報生命体である自分たちに自律進化の切っ掛けを与える存在として神谷ナツカの存在を解析を行っている。だが彼らは情報思念体であるがために有機生命体と直接的にコミュニケートが不可能だ。人間は言葉を抜きにして概念を伝達する術を持たない。だから私のような人間用のインターフェイスを作った。情報統合思念体は私を通して人間とコンタクト出来る。」
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