神谷ナツカの虚空
「ちょっとあんた、早く帰ってくると思って私お弁当食べるのずっと待ってたのに!」
神谷はいつも通り、眉を傾け、早口で怒りっぽい感じに言った。
「まあまあ、落ち着け。それはお前の単なる思い込みだ。」
俺は神谷と一緒にご飯を食べることや、教室に早く戻る、なんていう約束などしていなかったのだ。
すると、彼女は自分の言ったことが単なる妄想であったことに気づいたのか、顔を赤らめた。
「んもうっ、そんな事どうでもいい、さっさとこっちに来なさい!」
彼女は俺の腕を握り、いつもの階段の踊り場まで連れて行った。
「私ね、渡部に熊谷の転校のこと聞いたんだけど、転校するって聞いたのが今日の朝らしいわよ!しかも相手の家の電話番号も分からないし、住所も分からない、ただアメリカに行ったことしか聞いてないらしいわよ!普通、そんなことないわよね。これは事件の匂いがプンプンするわ!熊谷のもともと住んでたところの住所、聞いておいたから放課後一緒に行くわよ!」
俺はそう言われるがままに廊下を歩かされていた。まあ、神谷こそは俺の話を聞いてくれないが、別についていけばいいだけだ。あまり体力も使わなくて済むだろう。
そして彼女は部室のドアにでかでかと『KY隊 本日自主休業 神谷ナツカ』と書かれた紙を貼り、教室に戻った。無論、いつもの怒っているような顔で。

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