神谷ナツカの虚空
「どうやら、ここが熊谷のすんでたところみたいわね…。」
そのマンションは白と灰色が混ざり合った綺麗なマンションで、エントランスの入り口もオートロックで高級感が満ち溢れていた。
「お前、マンションによくある住人全員に使える魔法のパスワード的なアレを知っているのか?」
「もちろん知らないわよ!」
彼女は笑顔で自慢げに言った。
「こういう時は持久戦ね。誰かが出てきた時にこっそり入るのよ!」
スーッ
中から眼鏡をかけたスーツ姿の女性が出てきた。いわゆるキャリアウーマンだ。彼女は俺と神谷をじろっと睨みつけた。俺たちは彼女の正面で道を断ちふさいでいたことに気づき、ささっと道を開けた。俺がぼおっとしていたことを反省していると、後ろから
ガッ
と嫌な音がした。が、その発生源は俺ではなく、神谷だった。なんと、オートロックのドアを無理やり開けたままにしたのだ。
「さ、早く入りなさいよ!」
彼女は俺の首元の襟をつかみ、無理やり入れた。俺たちはエレベーターに乗り、熊谷の部屋に向かった。もちろん、部屋は開いていなかった。それでも神谷はがちゃがちゃ、とドアノブをひねっていた。
「空き部屋なんだから、開くわけないだろう?」
「うーん、仕方ないわね、管理人さんのところに行ってみるわ。」
我ながら、とても無駄な時間の使い方をしているもんだな…。
「鍵を貸してくれるはずないだろう?」
「違うわ!熊谷がいつごろからここに住んでいるかとかを聞くの!」
あー、なるほど、と俺は感心し、頷いた。でも、やっぱり無駄だ。
「こんな無駄なことしてないで、とっとと帰ろうぜ。」
「ダメっ!」
やっぱり聞いてねぇ~!
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