神谷ナツカの虚空
「こっちから帰る?」
神谷は南側を指さし、そう言った。
「いいや。」
俺は神谷の指し示した方向の方が近いのだが神谷の背中が俺には『付いてくるな』と言っているように思えた。そして、神谷のその背中がみえなくなるまで俺はそこに立ち尽くしていた。

一体何をしているんだろうか、と思いながら俺は自転車を走らせ、家へ帰った。俺が自転車を家の前に止めようとすると、そこには川上がいた。いつも通り、制服姿だった。
「こんにちは。いつぞやの約束を果たしに来ました。」
俺はその言葉の意味を瞬時に理解した。
「少しばかり、お時間を頂いても宜しいでしょうか。」
そう言いながら、彼は手を挙げ、タクシーを呼んだ。丁度良くタクシーがやって来た。俺たちはそれに乗り込んだ。タクシーはおもむろに動き出した。
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