神谷ナツカの虚空
「もちろん、神谷の事だよな?」
俺は分かり切ったことを言うかのような口答えで言った。
「ええ、神谷さんの事ですよ。というか、あなたはこの前、超能力を見せてくれ、とおっしゃいましたよね?それを直接あなたに見せられる時が来たので今日はお訪ねしました。」
「そ、それって本当なのか?」
俺は興奮と疑問の混ざり合った不思議な感情になった。
「はい、事実です。なんせ、私の能力はある時間、ある場所などの複数の条件下でしか起こせないものですから、ある意味ラッキーでしたね。」
俺はほっとした、という訳でもなく、この前話していたことということは、神谷が神である事を仮定した上である事を思い出した。俺にとってそれはとんちんかんだとか、無知だとか、そういうものだった。
「まだお前はナツカの事を神だと思っているのか?」
すると、彼は一瞬驚いたような、あるいは馬鹿にするような顔をしてからまた笑顔になり、こう言った。
「あなたは人間原理という言葉をご存知ですか?」
なんだそら。難しい言葉で俺を押し倒そうっていうのか?
「俺にはさっぱり理解できないから、詳しく教えてくれないか?」
そう言うと、彼は満足げに話し出した。
「例を挙げて説明すると、今宇宙がこうであるというのは、人間が観測したものの情報からしか出来ていないという事です。つまり、仮にそれが存在していたとしてもそれを人間が観測や発見をしなければ無いものと同然であるという理論ということです。」
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