神谷ナツカの虚空
さっきと世界の見た目、というか形というか、そのものは変わっていないのだが、どれも全体が青みがかっていた。ビルも地面も、何もかもが。そして人は俺と川上以外誰もいない。車や信号は止まっている。まるで、時間を凍結したようだ。
「次元空間の隙間、地層で言う所の断層みたいなものです。丁度ここの横断歩道の真ん中が閉鎖空間の壁です。大体半径2キロメートルでしょうか。閉鎖空間の中ではかなり狭い方です。もちろん、物理的な手段では侵入できません。今外の世界は時間が止まっている、という訳ではなく、元居た世界も時は流れています。普通の人がここに迷い込むなんてことは、まあ滅多にありません。」
そう言いながら、俺たちはあるビルの屋上に向かった。そして、彼は金網にもたれかかって、また話し始めた。
「このような閉鎖空間は、ある一定のペースで出現するという訳ではなく、時間や場所、広さどれを取ってもゲリラ、限定的です。毎日出現することもあれば、数ヶ月間音沙汰無しという事もあります。ですが、神谷さんが何かにつまずいたり、ストレスを抱えるなどして、不安定な状態になると現れる、という事は確実です。私の能力は閉鎖空間に入れる事と、神谷さんの精神のケアをする、という事ぐらいです。」
彼は長々と喋った後、俺の方を向きこう言った。
「しかし、この状況を見ても驚かないとは、どんな経験をしているのでしょうか?」
「いや、今まで剱持とかに色々見せられたからな。」
「あっ、始まりました!あれを見て下さい!」
それを聞いた瞬間は俺の話をきいてくれないんだな、と思ったが、彼の指さす先を見るとそれの訳が分かった。
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