神谷ナツカの虚空
校庭にはもちろん人っ子一人いなかった。俺は学校外に獣人がいると考え、校門まで走った。
「ねぇ、淡々と動いてるけど、あなたこの事態について何か知っているの?解決法とか。」
ここで本当のことを言ってしまっては剣持や川上たちの努力が水の泡だ。
「いや、知らん。勘だ。」
そう言うと、彼女は顔をむっつりさせた。
校門に向かうと、そこにはバリアが貼ってあった。恐らくこの東高全体がすっぽりと閉鎖空間になっているのだろう。
「ああ、ここからは出られないのね…。」
彼女はあきらめてしまったかのような声で言った。実際そうだったのかもしれないが。
「ねえ、情報を集めないと埒が明かないじゃない?何か、元の世界と通信出来たりできるものを探しましょう。」
「ああ、そうだな。じゃあ、部室と、、職員室に行くか。」
部室にはあのコンピュータ部からぶんどったパソコンがあるわけだし、職員室には大量の固定電話がある。確かにそれなら元の世界に戻れるかもしれない。
俺たちはまず職員室に行き、思い切って窓を割って入り、固定電話の一つ一つにダイヤルを打った。が、無情にも、ツーツー、としか音が鳴り響くだけだった。もう既に俺は焦りを感じていた。手の汗が止まらなかった。次に部室へ向かった。俺は何故かお茶を注ぎ始めた。
「…飲むか?神谷。」
「いいわ。」
俺はただ気を紛らわしたかっただけなのかもしれない。俺はゆっくりとお茶を飲んだ。お茶が喉を通る音がいつもよりよく聞こえた。
「何故私は今ここにいるの?ここはどこで今は何時なの?私とあんた以外の人はどこに行ってしまったの?」
知るかよ…。
「私、探検に行ってくるわ!すぐに戻るからあんたはここにいて!絶対に、よ!」
俺ははあ、とため息を漏らした。ああいうところは神谷っぽいな。
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