神谷ナツカの虚空
第六章 屈
明くる日、俺は当たり前のように部室にいた。そこにはメンツは全員揃っていて、俺と川上は野球のボードゲームたるものを遊び、神谷はそれを観戦(?)し、長谷川さんはナース服でお茶を入れ、剣持は本を読んでいた。やはりこのような日常というものが恋しくなることもあるのだなと、しみじみ思い返した。セミの鳴き声は日に日に鬱陶しさを増していっていた。もうすぐ夏休みがやって来る、と思いながらも課題という青春の喜びを、多少ではあるが阻むものの存在を思い出してもいた。俺がボードの後ろの棒を引き、鉄球を飛ばして川上が操る打手がそれを打つ、その繰り返しを行っていた。丁度その時だった。
「そうだわ!みんなで野球の試合をしましょう!」
一瞬部室はシーンとした。何故かって、多分、野球は宇宙人などに全く関係ないと思えたからだろう。本来であれば何か関係があると気づくべきなのだろう、さっぱりわからない!
「えーっと、私、野球のルール知りません…。」
長谷川さんが言った。
「僕もです。というか、何故野球をするのですか?」
川上が爽やかに言った。逆にこの年にもなってルールぐらいは知っておくべきだ、と思った。
「大丈夫よ!ボールが飛んできたら打てばいい、ただそれだけよ!」
いや、正確にはそうではない。ストライクゾーンにボールが来なかったら打たずにボールを待つのだ。
「神谷こそ、ちゃんとしたルール知ってるのか?」
すると彼女は偉そうにして、
「もちろん知ってるわ!前にも話したでしょう?私は何回も球場で観戦したことあるの!」
ならいいのだが…実力差で負けるならともかく、反則で負けるなんてことは俺にとっては論外だった。
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