神谷ナツカの虚空
「あのー、何故野球をするのですか?」
川上が遠慮深く言った。さっき同じ質問をしていた気がする。
「それはもちろん、我がKY隊の活動を世間のみならず宇宙全体に訴えるためよ!」
本当にそんなことを考えているのか?だとしたら、頭の回らないやつだ、俺なら、例えば音声で毎日モールス信号とやらで私はここにいます、などど問いかけるとか、ライトで東高の天体望遠鏡を点滅させるとかをするが…。
「で、出場するのがこの大会よ!」
神谷はそう言いながら部員全員に白いビラを配った。
「じゃ、読み上げるわよ!大会名は…第35回市内アマチュア野球大会、出場人数は勿論9人、チーム名はKY隊で、既に申し込んでおいたわ!」
「ちょっと待て、仮に部員全員が出場したとしても、俺、神谷、剱持、川上、長谷川さんで5人しかいないじゃないか?他のメンツはどうやってそろえるんだ?」
「そうなのよ…あと4人!…そうだわ!そこら辺をほっつき歩いてるやつらをとっ捕まえるのがいいわ!」
彼女はいかにも名案が浮かんだかのような甲高い声で言ったがそれは正しく迷案だった。
「もういい。俺たちで集める。」
とは言ったものの、俺に人脈があるわけでは無い。とりあえずの処置として、川口と網本に話を聞くか。
「じゃあ、川口と網本は視野に入れるか。」
「それでいいわ!」
自分と同じクラスの人間をそれ呼ばわりするなよ。
「あの…えーっと…、私の友人で良ければ…。」
長谷川さんがおもむろに言った。だが、長谷川さんのお友達、という事は未来から来た者かもしれない!
俺がそう思い、首を曲げていると、長谷川さんが、
「あっ、大丈夫です。その子はこの時間平面…じゃなくって、書道部の方ですから。」
なら良かった。あと1人だな…。
「私の組織の方で宜しければ…。神谷さんに対して関心を抱いている者がいて。」
川上が言った。でもそんな奴連れてきたら悪影響だ!
「余計なことになりそうだ。俺が何とかする。」
「じゃ、もう準備万端わね!試合は今週の日曜だから、今から練習するわよ!」
待て。今日は確か木曜だな…。あと3日じゃねえか!大丈夫か?
「了解です。では早速会場に行きましょう!どこですか?」
川上はなんにも否定する事無く、受け入れた。
「お前は一つでも何か言ってやったらどうなんだ?」
「面倒です。」
そんな事をさらっと爽やかに言うな!
「練習は、そうね、あそこでやりましょ!」
そう言って彼女は球技グラウンドを指さした。
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