ツインテールの魔法
紘はなにかに苦しんでいるようだった。
そんな紘を見たことがない蒼羽は、戸惑いを見せる。
「どう、すんの……?」
それを言うのが精一杯だった。
「お前、髪結んだりできるか?」
「姉ちゃんに教えこまれたけど……」
それを聞いて、紘は鞄から櫛とゴムを取り出す。
「……頼まれてくれないか」
「諭吉さん一枚で手を打とう」
紘は蒼羽に向けて伸ばした手を止める。
「冗談だよ。俺だってノンちゃんには笑顔でいてほしいし」
蒼羽はその二つを受け取ると、紘から離れた。
紘があそこまで追い詰めていたとは思いもしなかった。
あの日、夏音となにがあったのか。
気になって仕方ないが、聞けるような雰囲気ではないことくらい、簡単にわかる。
教室に入ると、案の定塞ぎ込んでいる夏音がいた。
蒼羽は背後から夏音の肩に手を置くと、夏音は少し大袈裟に驚いた。
「蒼羽くん……」
それが紘ではなかったからなのか、安心の色が見えた。
「髪、結ぼっか」
蒼羽は夏音の髪に触れる。
「……なにも聞かないの?」
「聞いても教えてくれないでしょ。だったら、隠してても、作っててもいいから、俺はノンちゃんの笑うとこが見たい。悲しんでるのはやっぱ嫌だからさ」