ツインテールの魔法
「どうせなら大きいことをやれって顧問に言われた」
紘は涼しい顔をしてページをめくる。
「紘くんのバカ……自分勝手……」
夏音が並べていく言葉も、右から左に流していく。
その態度が余計に苛立たせる。
「……紘なんか嫌い」
その言葉はさすがに流せなくて、紘は本から顔を上げた。
夏音は紘と目が合うより先に、部室を飛び出した。
紘は追いかけようとするが、蒼羽が出入り口に立ち、引き止める。
「行ってどうすんの」
「どうって……」
蒼羽は紘を睨む。
「紘がやってることは、ただの押し付けだよ。ノンちゃんに笑って欲しい、過去を乗り越えて欲しいって、ノンちゃんを引っ張ってる。でも、そうじゃないだろ」
静かな落ち着いた声だった。
紘は黙って蒼羽の話を聞く。
「本当に笑いたいなら、そうするためにどうすればいいかは自分で考えなきゃいけない。過去を乗り越えるなら、自分の力で乗り越えようとしなきゃ意味がない」
それは自分自身にも言えることで、蒼羽はなにもない右手の平を見つめ、握る。
そしてまた紘の顔を見た。
その顔はさっきとは違い、苦しそうに見える。
「俺たちにできるのは、頑張るノンちゃんを支えることだけなんだよ」