ツインテールの魔法
「蒼羽くん……?」
目を背けたくなるくらい、夏音は弱っていた。
思わず大丈夫?と言いたくなったが、ぐっと堪えた。
「ノンちゃん、衣装係が衣装合わせしたいって」
「あ……」
夏音は立ち上がらなかった。
教室にも部室にもいたくないけれど、紘といることを選んでここにいる。
それくらい、麗と同じ場にいたくなかった。
「……衣装、預かってこようか?」
「えっと……」
夏音は俯いた。
それを見ていた紘は立ち上がり、乱暴に夏音の腕を引っ張った。
「ちょっと、やめて!」
「いい加減にしろ!」
自分の声を上回る怒鳴り声に、夏音は抵抗をやめる。
紘は夏音から手を離した。
「励ましてもダメ、背中を押そうとしてもダメ。じゃあどうしろって言うんだよ!お前は、いつまで逃げる気だ!」
「紘、言いすぎ」
蒼羽は紘の肩に手を置くが、叩き落とすように払われた。
「……逃げて、なにが悪いの……嫌なことから逃げて、なにが悪いの!」
泣き叫ぶ声に、蒼羽は戸惑う。
だが、紘はため息をついてさらに言葉を重ねていく。
「言い方を変えてやる。俺たちはいつまで気を遣わなきゃいけない。この状態はいつまで続くんだ?」
「……ノン、頼んでない」