ツインテールの魔法

夏音の言葉とは思えなかった。


「……怖いこと言うね」
「そういう怖いことが、リラの身に起ころうとしてるんだよ」


蒼羽はわかっていても、どこか現実味がなかった。

家族を失った、命を失いかけたからこその雰囲気かと思ったが、当然ながら口には出来なかった。


そのうち曲の終わりが近付いてくる。
夏音たちの緊張感も高まっていく。


「……あ」


観客に注目していた夏音が声を零した。
夏音の視線の先には観客をかき分け前に向かってくる男の姿があった。


「あの人……怪しくない……?」


夏音の指差すほうを見る。


「……たしかに」


空気がより一層険しくなる。
周りの音が遠くなっていき、二人の意識は男にだけ集中していく。


男は一歩、また一歩とステージに近付いてくる。
最前列に来ると、男はズボンのポケットに手を入れた。


「……ビンゴだ」


夏音が呟くと同時に、男はステージに飛び上がった。
その手には取り出された折りたたみ式ナイフがある。

蒼羽と紘は空奈を守るようにステージに出る。


客席から悲鳴が上がる。
ステージから逃げる客は出入り口に流れていく。


夏音はその様子を見ていることしか出来なかった。


ナイフを持った男が現れたということで、警備員もステージに出てくる。
< 153 / 162 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop