ツインテールの魔法

だが、男が引く気配はない。
それどころか、出てきた人間全員を切り殺してしまいそうだった。


「大丈夫……大丈夫……大丈夫……」


呪文のように自分に言い聞かせ、夏音は足を踏み出す。
だが、全身が固くなっていてその一歩はとても小さかった。

ステージの中央に着ける気がしない。


「なんで……もう、失いたくないのに……ねえ……動いてよ……動いて……」


夏音は悔しさのあまり涙が流れる。
泣きたいのは自分ではないとわかっていても、止められなかった。


「君が……邪魔なんだ……どうして俺の言うことを聞かなかったんだ……忠告しただろう……君がいなくなれば……千波は俺を好きになってくれるんだ……」


男の話に、夏音は違和感を覚える。
それをどこかで聞いたことがあるような気がした。


「私がいなくなれば千波があなたを?バカじゃないの」


多くの人を挟んで、空奈はそう言い放った。
それがまた男を逆上させる。


「バカに……するな……俺は今まで……」
「愛する人にとっての邪魔者を消してきた?」


男に続くように夏音がステージを歩く。
まさか言いたいことを言われると思っていなかった男は、夏音にナイフを向けた。


「夏音!」
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