ツインテールの魔法
「紘くーん」
靴を履き替え、学校を出ても、紘は夏音の手を離さない。
「おーい、紘くーん」
まるで夏音の呼びかけが聞こえていないようだ。
「……紘」
夏音が呼び捨てにしたことで、やっと紘は足を止めた。
紘は夏音の顔を凝視する。
「やっとノンのこと見た。さっきからずっと呼んでたんだよ?」
「……ごめん」
そう落ち込む紘は、小豆の呼び方を間違えたことから落ち込んでいるようには見えなかった。
「紘くん、なに見たの?」
「あの人が……」
紘はそこまで言って、言葉を詰まらせた。
どう説明すればいいのか。
これを、夏音に言っていいのか。
その二つが頭の中を駆け巡り、口をつぐんだ。
すると、夏音は背伸びをして紘の頭を撫でた。
「は……?」
夏音の行動が理解出来ず、紘は間抜けな声を出した。
「言いたくないことは、言わなくていいんだよ?」
「でもそれだと……」
夏音は紘より少し先に立ち、振り返る。
「ノンは紘くんの悲しむ顔が見たくないのです」
紘はその場に座り込んだ。
「急に姉らしくするなよ……」
「ノンは紘くんのお姉ちゃんだよー?」
紘は敵わないと苦笑する。
「……いじめられてたんだ。あの人」