ツインテールの魔法

店の隅で本を読んでいたはずの紘が、夏音に手を差し伸べた。
夏音はその手を掴み、立ち上がる。


「ありがとう、紘くん」


そして紘は結衣花を見た。
夏音からは紘がどんな表情をしているのか見えないが、結衣花の怯えた表情からして、相当怖い顔をしているのだと思った。


「紘くん、ノンは大丈夫だよ。結衣花ちゃんが怖がっちゃうから、怒っちゃダメ」


夏音は慌てて紘の前に出た。


「なによ……いい子ぶって……」
「結衣花ちゃん?」


結衣花の呟いた言葉が聞き取れなくて、夏音は振り返る。
すると、また睨まれた。


「嫌い」
「え!?ちょ、結衣花ちゃん!」


結衣花はどこかに走っていってしまった。


「ノン、もんと向かって嫌いって初めて言われた」
「面と向かって」
「……結衣花ちゃんのとこ行ってきます」


紘に訂正されて、半分膨れた様子で結衣花の後を追おうとした。
だが、蒼羽が腕を掴んだ。


「なんで止めるの?」
「いや、結衣花はノンちゃんに追いかけられたくないんじゃないかな、と思って」
「……またノンに意地悪したいのかと思った」


蒼羽は苦笑するしかなかった。
それこそ、今までの行いのせいだ。


「でも、今結衣花ちゃんを一人にしたら、いけない気がする」
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