ツインテールの魔法
「なにしてんだよ!」
紘は怒りに任せて声を荒げた。
夏音は怯えた様子で紘を見る。
「えっと、ノン、海に入りたくて……」
動揺を見せる夏音に紘は安堵のため息をついた。
そして、夏音を引き寄せる。
「バカ……」
耳元で囁かれた泣きそうな声に、なにをしたか身に覚えはないのに、悪いことをしてしまったのだと思った。
「紘くん、あの、ごめんね……?」
だから、謝罪をしても疑問形だった。
紘はゆっくりと夏音から離れる。
「いや……怒鳴って悪かった。戻ろう」
紘は夏音の腕を引いた。
「紘くん……怒ってる?」
隣に来た夏音は、俯いていた。
「怒ってないよ。それで、あいつとなにがあった?」
「あいつって、結衣花ちゃん?結衣花ちゃんとは、なにもないよ。ただ、結衣花ちゃんのお友達が、結衣花ちゃんのこと可哀想な奴って、言ったから……」
そこまで言って、夏音は言葉を濁した。
頭の中に、幼いころの記憶が蘇る。
『カノンちゃんはお母さんたちがいなくて、可哀想』
『カノンちゃんって、一人なんだって』
夏音は思わず下唇を噛んだ。
「ノン、可哀想じゃない……一人じゃ、ない……」
その独り言に、紘はなにも言えなかった。