ツインテールの魔法

無理に笑うかと思ったが、笑顔が作れていなかった。
それが自分でもわかったのか、夏音はまた下を向いた。

蒼羽は心配になって、夏音の頭に手を伸ばす。


「ノン、海に入ってくる!」


しかし、夏音は俯いたまま叫び、蒼羽の手は空中で止まった。


「ちょ、ノンちゃん!?」


店を飛び出した夏音を追いかけようとすると、紘が引き止めた。


「お前、こんなときでも独占欲かよ!」
「違う!」


普段叫ぶことのない紘に怒鳴られ、蒼羽は体がこわばった。
掴まれた手首が、異様に痛くなる。


「夏音は、都築のことを失いたくないと思ってる。だから、お前の告白をわからないフリをしているんだ」
「なんだよ、それ」
「夏音は恋愛関係になると、人間関係が終わると思ってる」


ますます意味がわからず、蒼羽は紘の説明を待った。
紘は蒼羽から手を離す。


「……夏音の母親は浮気癖があった。バレても懲りずに浮気を繰り返していたらしい。それに耐えられなくなった父親が、夏音が五歳のとき一家心中を図った。……殺傷事件だ」


紘の暗い声に、その場の空気はますます重くなっていく。


その場にいる全員は、言葉を失う。
翔貴と結衣花は幼いながらに、紘の言っている意味を理解していた。
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