ツインテールの魔法
「普段優しかった父親の恐ろしい顔、嘆く母親。夏音はそれを目の当たりにして、気を失ったらしい。だから夏音の父親はそれを見て、夏音が死んだと思ったって……」
紘の手は震えていた。
夏音の過去に、全員息を呑む。
「これがきっかけで、夏音は恋愛は人を狂わせると学んだ。だから……夏音は誰とも恋をしないと決めている」
ここで、自分が夏音を変えてやる、とは言い出せなかった。
今は夏音を好きだと言い切れるが、先のことなんてわからない。
仮にずっと好きでいることができても、今の自分が豹変しないと言いきれる自信がなかった。
「夏音の父親と俺の父親は親友で、俺たちは生まれたときから一緒にいる。誕生日は偶然一緒だったが、夏音のほうが少し先に生まれたらしい。だから、あいつは俺のお姉ちゃんだと言い張ってる」
二人の関係が明らかになり、蒼羽は納得すると同時に、焦りを覚えた。
「夏音は助かったけど行き場がなくて、俺の父親が夏音を引き取った。最初は暗く塞ぎ込んでいた。笑顔なんて言葉からかけ離れたような感じだった」
夏音の暗い様子なんて想像出来ないが、紘の話を聞いて、無理ないと思った。
「……でもある日から、夏音はあの明るい性格になった。周りにこれ以上心配をかけられないとか言って」