ツインテールの魔法
「つまりこうなることは分かってたんだ。……なのに後悔?」
「うるせえ」
紘は表面に水滴をつけたコップを掴み、喉に水を通す。
「現状維持は夏音のためにならない。だから、あの方法が間違ってたとは思わないが、もっと賢いやり方があったんじゃないか、とも思う」
紘は夏音が傷つくようなことは絶対にしないと思っていた蒼羽は、驚いた。
「……結局さ、紘はどうしたいの」
「夏音に心から笑ってもらえるようにする」
今でも十分に楽しんでいる、と無責任には言えなかった。
夏音の過去を聞き、そう見えるようにしているのではないか、と思った。
「ノンちゃんの笑顔ねえ……どうやって判断するの?」
「髪ほどいて笑ったら合格」
蒼羽はなるほど、と呟き、海のほうを眺めた。
そこには結衣花とはしゃぐ夏音がいる。
「十分笑ってると思うけどなあ」
その独り言を聞き、紘も海を見た。
「過去を乗り越えてもらいたいんだよ」
「紘といて、乗り越えたんじゃないの?」
「……それだけじゃない」
そのセリフはあまりに小さな声で、蒼羽は聞き取れなかった。
「なんか言った?」
「……別に」
紘は残った水を飲み干し、空になったコップを厨房に持っていった。
蒼羽は紘を追いかけ、話を聞こうとしたが、紘は説明をしなかった。