ツインテールの魔法
「あれだけ騒いでいたら、無理ない」
紘は夏音のバランスが崩れないよう気を使い、ページをめくる。
蒼羽はその光景から逃げるように、背後の流れていく茜色の海面を眺める。
「……俺はさ、探偵でも刑事でもないし、なりたいと思わない」
唐突に意味のわからない言葉が聞こえてきて、紘は本を閉じて赤く染まる蒼羽の顔を見る。
「ただ、ノンちゃんの過去話で気になることがあった」
蒼羽は外の景色を見つめたまま、話を続ける。
「ノンちゃんは包丁を怖がらなかった?まだ残るくらいの傷ってことは、相当酷い怪我だった?なんでノンちゃんのお父さんは……心中をしようとした?お母さんが憎いだけなら、お母さんを殺すだけでよかったんじゃない?」
頭に浮かんだ疑問をそのまま言葉にした。
紘が答えてくれようとしているか、蒼羽は紘に視線を移した。
紘は本を閉じて、夏音の寝顔を見つめている。
「昔は見ただけでパニックになってた。今はパニック状態にはならなくなったが、包丁を見ると動揺する。包丁を使う調理実習があるときは、学校を休んでた。……たぶん、今日厨房で音がしたのは、包丁を見て動揺したからだ」
蒼羽は音がしたことを思い出す。
あのとき、紘は駆けつけることもしなかった。
「どうしてあのとき厨房に行くのを止めなかった?駆けつけなかった?……ノンちゃんが心配じゃなかったの?」