ツインテールの魔法
「夏音だって子供じゃない。気を付けることくらいできる。駆けつけたところで、俺にできることはなかった。……だからといって、心配してないわけじゃない」
「……ですよね、ごめん」
蒼羽は申しわけなさそうに、向かいの椅子に座る人の足元を見た。
「夏音の傷は……詳しく知らない。見たこともない」
「そうなの?」
夏音のことはなんでも知っていると思っていたから、自然とそう零れた。
「俺には見られたくなかったらしい。今はそんなの関係なく見れないが」
蒼羽はたしかに、と苦笑する。
「それから、事件のことも知らない。事件は心中、警察の捜査もすぐ終了した。おじさんがどうして夏音も……っていうのは、おばさんと血の繋がった夏音を見たくなかった……んじゃないかって、俺は思ったが、実際はどうだか、もう知ることはできない」
蒼羽はなにか言わなければと思ったが、言葉が浮かばなかった。
「……ノンちゃんは、どうしたいんだろう」
蒼羽は夏音の触覚を耳にかけ、幸せそうに眠る夏音に優しい視線を送る。
「……知るか」
次第に人が減っていき、三人だけになった。
だが、最寄り駅に着くまで夏音は寝ていて、蒼羽と紘が言葉を交わすことはなかった。