ツインテールの魔法

難題を押し付けられたような気分だった。
紘の作った、ヒントの足りない問題よりも難しい。

答えのないことを考え、答えを見つけろと言われ、難しくないわけがない。


そして思考の迷路に迷い込んでいたら、誰かと肩がぶつかった。
夏音は慌てて謝る。


「ご、ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそごめんなさいね」


相手は優しく微笑むと、そのまま足を進めた。
夏音も小豆のあとを追いかけようと、歩き出す。


「……偽善者さん」


すれ違う途中、囁くように聞こえてきた声に、夏音は思いっきり振り返った。
しかし、向こうはなにもなかったかのように歩いている。

開いていた窓から入ってくる風で、腰まで伸びた黒髪がなびく。
夏音はただそれを見つめることしかできなかった。


だが、頭の中では彼女が誰か、予想がついた。
自分のことを偽善者と呼ぶのは彼女しかいない。

夏音の足は動かなくなった。


「……ノンちゃん!」


小豆の声で我に返った。
小豆は心配そうに夏音の顔を覗き込んでいる。


「大丈夫?」
「……ごめん、あずちゃん……アドバイス、またにするね」


夏音は小豆に原稿を押し付けると、助けを求めるかのように紘がいる部室に急いだ。
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