ツインテールの魔法

◆ ◇ ◆


「ノンちゃん、おかしかった」


部室に残った蒼羽は、ドアを見つめてこぼした。

窓の外からは部活に勤しむ運動部の声が聞こえてくるが、紘はまるで静かな環境にでもいるのではないかと錯覚させるほど、読書に集中している。


そのため、蒼羽の独り言は綺麗に無視された。


「なんか、よそよそしくなった感じしない?」


蒼羽は紘の向かいの席に座り、読書の邪魔をせんとブックカバーについている紐の栞を引っ張る。
それでも紘は無視を貫いていたが、あまりに長く邪魔をされたため、本から目線を上げた。


「なんだよ」


紘が話を聞いてくれるとなり、蒼羽は紐から手を離す。


「ノンちゃん。変だよね?」


紘は呆れてため息しか出なかった。


「だからなんだよ」
「紘、なんでかわかる?」
「それくらい自分で考えろ」


すると、蒼羽は不服そうに頬を膨らませる。
しかし、紘は気にせず読書を再開した。
今度は邪魔されないようにと、栞を手で抑えながら本を読む姿は、どこか不格好だ。


「じゃあ、ヒン」
「紘くん!」


夏音の叫び声が蒼羽の声をかき消した。
夏音は紘の姿を見て気が緩んだのか、薄らと涙を浮かべる。
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