ツインテールの魔法
紘は黙って立ち上がり、夏音に近寄る。
その気配を感じたのか、夏音は紘に抱きついた。
「紘くん……紘くん……」
紘を呼ぶたびに、手に力が入る。
それなのに、紘は苦しそうな顔を一つもしない。
「……紘……」
最後は闇に消え入るような、絞り出したような声で、紘を呼び捨てた。
そして、部屋は静寂に支配される。
ときどき聞こえてくる鼻をすする音から、蒼羽は夏音が泣いているのだとわかった。
そのせいか、かける言葉が見当たらなかった。
だが、今部屋を出ようとは思わなかった。
夏音の力になりたいと思ったからというのもあるが、二人が出入り口を塞いでいるから、出たくても出られない状況だった。
夏音が紘から離れたのは、それから十五分後のことだった。
頬にはまだ泣いた跡が残っていて、目も赤い。
「……紘くん、文化祭、展示でいい……」
泣いたあとで、夏音のセリフは途切れ途切れだった。
「わかった」
紘は理由を聞かずに、そう答えた。
しかし、蒼羽は納得がいかなかった。
「ノンちゃん、なんで?あんなにステージがいいって言ってたのに」
「……もう、いいの。ノン、今、目立ちたく、ない……」
そこからさらに、どうしてとは言えなかった。
蒼羽はその言葉を飲み込んだ。