ツインテールの魔法
「……わかってる」
夏音がそのことで苦しんでいることを、と心の中で続けた。
夏音は紘の手からすり抜け、再び持っているペットボトルに視線を落とす。
「ステージだと藤宮にあのことを忘れられたと思われるかもしれない、か……」
紘はようやく、開けられた缶コーヒーに口をつけた。
夏音は答えなかった。
その無言で、紘がわかってくれると思った。
「……このまま逃げていていいのか?」
「嫌だよ……でも、うーちゃんは……」
「言い訳にしか聞こえないな」
夏音は反論しようと紘を見るが、思いとどまった。
返す言葉などなかったからだ。
「夏音はどうしたい」
また言葉に詰まる。
どうしたいかわかっていても、なぜか口に出来なかった。
「和解したいなら、チャンスだと思う」
紘はコーヒーを飲み干し、空の缶を捨てに立ち上がる。
「そんな簡単に言わないでよ……」
夏音の横には座らず、目の前にしゃがんで夏音の手に自分の手を重ねる。
俯いた夏音と目を合わせた。
「大丈夫」
はっきりとした口調だった。
だが、夏音はそう言われて、紘の手を払った。
「根拠もないのに、そんなこと言わないで!」
苦しそうに叫ばれ、言葉を間違えたと思ったが、後の祭りだ。
未開封のりんごジュースを紘に押し付けると、家まで止まることなく走って帰った。