時のなかの赤い糸
「失礼します」
スー、としょうじが開いて遥は瞳を大きく開いた。
永倉はニヤリと笑って遥に目線を向けると、あの山崎がつけたキスマークに軽く口づけした。
しょうじを開いた人物、山崎は顔色1つ変えずにその様子をじっくりと見ていた。
「ななな永倉さんっ!ちょっ」
一人落ち着かない遥はジタバタと暴れだす
「坂元龍馬が、寺田屋に来てるらしいねんけどいかへん?」
まるで本当に何もなかったような澄んだ山崎の声が大きく聞こえてやっと永倉が遥から離れた。
「行くっ」
「坂元龍馬になんで会いに行くんだよ」
永倉が不満そうな声を漏らした。
「坂元龍馬は昔は永倉遙と名乗ってたんですよ」
山崎が淡々と話して永倉はハッとした。
「遙が坂元龍馬?!」
遥も山崎も頷いた。
遥はずれた襟元を直して縁側に出ると、山崎と歩き出した。
「待て、俺も行く」
心配になった永倉が息を切らして二人を追い掛けると、永倉が山崎を細い目で見据えた。
「気持ちはよく分かるよ。けど譲れん」
「わかってますよ。
気付くの早いんですね、さすが男」
山崎はハハハと笑って空をあおいだ。