時のなかの赤い糸


どこまでも柔らかい近藤の声は伊東の悪心を少しずつ透過さす。




自分のやりかけたことを恥ずべき。



自分の誠に反する。






「お世話になりました。近藤局長」




伊東は真っ直ぐ家路につくことはなかった。





向かったのは西本願寺までの道。



七条油小路南。





「……土方さん」


「伊東」




夜の暗闇のなかで灯りを持った伊東は怪しく笑うと土方にゆっくり近付いた




「近藤は?」

「………………」





何も答えない伊東に、土方は刀を抜いた。




それでも近付いてくる伊東。




「斬られてぇのか?」

「…………………」




刀が伊東にむく。




そしてそのまま伊東の腹を貫いていった。





伊東自ら死を選んだのであった。




本当の誠を忘れた自分の生き方に恥じて。




伊東こそ、誠を貫く武士だった。






< 374 / 506 >

この作品をシェア

pagetop