時のなかの赤い糸
「嘘だぁ……っ」
堪えていた遥の涙が溢れ出す。
「ねぇ、遥聞いて?」
影は触れられぬ遥の頬に手を重ね合わせる真似をした。
触られている感触さえもない
ただ、熱い
平助の手のひらの体温
刀を握るその手のひらは燃えるように熱い
「大切な人のために死ぬことが僕の本望だったんだよ」
影が薄くなる。
声が二重に聞こえる。
「一生口にはしないと決めたんだ」
そのかわりに、と影の声が遠くに聞こえて、遥の唇が熱くなった。
「……さようなら…」
風に流れて藤堂の声が聞こえた
凄く凄く悲しいのに、涙は出なくて、遥は笑顔で空に言った
「さようなら」