~異種魔法異能力挌闘SFファンタジー~ 帝竜 -ミカドノリュウ-
「よしと、これで残るは藍奈のぶんだけだ」

 個人情報がたっぷりとつまって……ない、名前と使う魔法だけを書いた、普通の人が見れば「凝った遊びだな」とか思ってしまうだろう資料を机で整え、カーキーは藍奈を促した。

「早くしてくれ! 今日は暇なんだ!」

「うっさいわね! 暇ならいいじゃないのよ!」

 よく見れば藍奈の手が震えている。麟紅などなぜか書ける草書体で走り書きをした程度の資料なのに、そんなに緊張するか? と思ってしまう。が、理由は別の方向にあった。

「エリートさんはそんなに人の下につくのが嫌なのか?」

 軽く皮肉っぽく言ったつもりなのか、カーキーがポケットに手を突っ込んで、藍奈の顔を覗いた。
 しかし事態は実際はもっと深刻だった。
 少し顔を近づけて耳を澄ますと、藍奈の震える口から「このわたしが……?」とか「このウェールズ魔法学院を飛び級で最優秀で卒業したわたしが……? こんな男の下に……?」とかいう言葉が漏れている。
 カーキーは肩をすくめると、藍奈の肩を叩いた。

「別に俺の下で働けとかこき使ってやるよとか言ってるわけじゃねぇんだから、サークルみたいなもんだから気軽に参加してオッケーだって。いーから落ち着け」

 顔を上げてカーキーをキッと睨みつける藍奈をなだめるのには少し骨が折れるだろう。

「お前も魔法使いとして、もっと強くなりたいだろ? 俺に勝ちたいだろ?」

「…………」

 藍奈はしばらくうつむいて沈黙、の後ゆっくりと顔を上げた。

「強く……なれるの……?」

「お前次第、なんなら俺が特別講習してやってもいい」

 魔法使いにとって、強くなることは名誉を得ることと同意義だ。よって強い魔法使いは下を上に上がらせないため強くなるための秘訣などは我流とし、弟子にさえも教えることはあまりないという。魔法使いとしての秘伝を教わることは、普通はないことだと、隣にいる常磐が耳打ちしてきた。
 麟紅の感想は、ふ~んの一言のみ、それ以上はよく意味がわからないので何も言えはしなかった。当たり前ではあるのだが。


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