あなたの名前は忘れたけれど。
訪問した実家は、お世辞にも綺麗とは言えない古い家だった。


俺が彼を捕まえたのは、一昨日の事だった。


不審者がいると通報を受けた。


向かってみれば、それはもうひどい有り様。


洋服屋のショーウィンドウ前に並べられた、もう腐り始めているケーキ。

枯れた花束。


封の空いていないプレゼントの数々。


声をかけた彼が俺に向けた血走った目。


カサカサの唇。


冬だというのに薄いニット一枚を着る彼は、「彼女が笑ってくれない…」と笑いながら泣いていた。
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