あなたの名前は忘れたけれど。
想像するには容易かった。


似ていたからだ。

俺とお前が。


広い家に、ただ1人取り残される感覚がハッキリ理解出来たからだ。


「俺、親父みたいにならなきゃって思ってたんです。

働いて、いずれは嫁を貰って、子どもを作って。


その子どもに背中を見せなきゃ、って。


女なんてただ子どもを産んでさえくれればいいと思ってました。

だから、手当たり次第結婚しないかって声をかけたんですけどね」


「その結果振られたんだろ?」


「ハハッ、その通りですよ。付き合う彼女は皆愛だの恋だの騒いでたんで、そんな奴じゃなくて、ただ俺は…」


知らぬ間に同じ道を辿ろうとしている事に気付いた彼は、負けた。

誘惑に。
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