あなたの名前は忘れたけれど。
生まれたと聞いた時、俺は仕事を放り出して病院へ向かった。


女の子だと分かった時、飛び跳ねるくらい嬉しかった。


初めて顔を合わせた時、表しようのない感情が込み上げてきた。


泣いた。


なんの涙か分からないが、ただ泣いた。


抱っこしてみますか?と言った先生の言葉に目を丸くして驚いた。


いいんですか?と応えた声は震えていた。


初めて抱いた時、情けなくも腕は震えていた。


まだ目も合わせてくれないお前を見て、何かを握ろうと宙を掴む小さな手を見て、また泣いた。


泣きながら、涙が溢れないように顔を上げたら、病室の窓の外から朝日が昇っていた。


忘れたくても、忘れることのできない1日だった。

鮮明に記憶の中に刻まれる、お前との出会い。
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