俺の女に触るな!
鏡に向かい髪を鋤いていると、自転車に乗れるようになり、ふらふら転がす私をトモはべそかきながら待って待ってとでかいサンダル履いてどこまでもどこまでもついてきた小さかった私たちの姿が何故か頭に浮かんだ。
鏡の自分に微笑んで心で会話。もうそろそろお腹空かしてるころだね。うん、間違いないね。
私の住む町の駅前は今だ勃興地帯で、鉄線に囲まれた空き地と真新しい信用金庫とブルーシート被さった信号機とが同居している。
まだ新しい塗料とトモの匂いのする駅の階段を上ると改札の脇にちゃちなベンチがまだどこに置けばいいのかわからないというふうに無造作にあちこちに置いてあり、飲み物の自販機がバカみたいに沢山ある明るい場所がある。
匂う匂う。
お金もない、そして、母親を愛する……恐れるゆえに派手な悪さも出来ないお坊っちゃまはここで時間を潰すしかない。
ビンゴ。黒のスタジャン風カーディガン。ダメージ過ぎるデニムの脚を組み、ピコンと座ってぼんやりしてるトモがいた。ひと月前、お母さんとスマホを買って買うなで揉めてやっぱりここで不貞腐れていた。