私の好きなお好み焼き屋の店長は私の好みです
「よし」

しばらく経って、店長が立ち上がった。

「店のセッティングをします」

声に振り向いた私と、バチリと目が合って不覚。

事務所から外に出ると、既に客席は用意されていたが、他の――ドリンクバーの棚だとか、グラス置き場だとか、もんじゃ焼きに使う文字べらだとか、お好みの木匙だとか――そういったものは全く手付かずのまま放置されていることが判った。

「ここはまだ何も手を入れていない。スプーンも器も全部、置き場は決まっていないし、強制する気はない。一からの店を、集まったあんたらに作り上げてもらいたいんだ。俺には報告だけで良い」

店に必要なものは全部届いてるから、欲しいものがあったら買ってくる。俺は奥で仕事をするから好きに並べ替えたりしてて。彼はそう付け加えて、踵を返した。

ほとんどが初めて会って数分の面々で、これはここ、これは良く使うと思うからここ、場所がないからとりあえずここ、と、パズルを組み立てるように収納していく。

枠組みが決まっているだけで内容量が計り知れない(しかも仕事をなにも判っていない連中にこの仕事を全て任せるのはどうかという気もしたが)パズルは、皆の警戒心を解かすのに役立った。

床にはダンボールが積みあがり、大体が大体の位置にセットできたとき、タイミング良く店長が現れた。

「おう、ごくろうさん。もう昼だから、メシ行っていいよ。一時間休憩」

必要なことを必要な言葉を並べるだけで伝える。

私は第一印象とあまりにも違う彼の言葉遣いや態度に、少し困惑していた。
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