私の好きなお好み焼き屋の店長は私の好みです
「ミサ?」

彼は席を立ち、私の横に跪いた。

なんて芝居がかった動きなのだろう。

私はぼうっとする頭の少し冷静な部分でそんなことを考えた。

「お好み焼き」

「え?」

喉が震えて、か細い声しか発せられない。今日面接で出会った彼のことを頭の隅で考えていたら、ついぽろりと言葉が出てきた。

「お好み焼きが食べたい」

アイスクリームやシャーベット、果物くらいならなんとかなっただろう。まさか彼も、豪華フレンチを前にお好み焼きと言われるとは予想していなかったと思う。

素直な彼は、私の言葉に眉を寄せて困った顔をした。

そんな表情に私は思わず口元を緩めた。

「嘘、嘘。ごめんね急に泣き出しちゃって。色々あってへこんでたんだぁ」

「色々って?」

「色々は、色々だよ。なんか話したいことでも、何話して良いか判らないときってあるよね、そんな感じかな、今は」

彼は笑う私に安心したのか、私の横から離れ自分の席に着く。

「泣くまで溜め込まないで、何でもいいから話してね。何のために俺がいるのさ」

甘えるために彼氏がいるわけじゃない、と言おうとしたが、あんまりなのでやめておいた。

私はうん、そうだよね、ごめんと頷き、スープを口に運んだ。

優しい優しいユースケ。

愛されているという実感は、私をどんどんと欲張らせていく。
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