私の好きなお好み焼き屋の店長は私の好みです
ユースケと唇を重ねる。

緊張した二人の唇はいつも冷たく、少し湿っている。

私はそれを、気持ち悪いと思う。

舌が咥内を侵しはじめ、小さく声が出るが、それは気持ち良いという意味ではなく、早く終われば良いのに、と願う悲鳴だ。

二人で温めあおうと願ったのに、それはもう無理なのだろうか。

ホテルの豪華なベッドの上で彼の腕に抱かれながら、私は義務的に声を出す。

スーツを着てビシッと髪をきめているにも関わらず、私の話に対して「へー」と声を上げた彼を思い出す。きっと、本性はあんなにキチッとしていない。仕事に対して普段の自分を殺して正面から向かっている、そんな男。


「泣かないで……」

ユースケの指が私の頬に触れる。

その感触で、私は自分が泣いているということに気づいた。

「痛かった? ごめん」

「ううん、そんなんじゃないの」

言ってから、じゃあ何でと聞かれるのが面倒くさかったので、私は彼の裸の胸に顔をつけた。

ドク、ドク、ドク

ドク、ドク、ドク

大きく、深く、脈うつ音が聞こえる。

生き物の鼓動を聞くのが好きだった。

ああ、生きてるんだなぁって安心できる。

自分の胸に手をつけて、同じ鼓動を感じて、ああ、私も生きてるんだって確認できる。

それって、すごく素敵なこと。
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