Short stories
Side Koki

どうしてもどうしても今度こそ手に入れたくて、俺は麻衣を離せなかった。
さっきみた麻衣の職場の上司だろう男は、は俺とは違って誠実そうで優しそうだとは思った。

でも、俺だってずっと麻衣を思ってきた気持ちは負けない。
そんな思いを込めて、俺はただ麻衣に伝わるように言葉を続けた。

腕の中でただ泣き続ける麻衣は、なにも言ってくれない。

今まで兄のように思ってきた俺の言葉は迷惑だったのか……。
そんな事が頭を過る。

ひょっとしたら、あいつとはもう付き合っていて、家族のような俺の告白に困っているのかもしれない。

そうしたら俺はただ、麻衣に負担をかけているだけになってしまう……。

「麻衣。ごめん……俺の気持ちだけ押し付けて……」

俺はそっと抱きしめていた腕を緩めて麻衣を離そうとした。
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