Short stories
Side Akihiro

「このバラください」
いつも通り聞こえた声に、俺はにこやかな笑みを浮かべた。
そこにいたのは、表情無く立っている女だった。
きっと笑えば可愛いのに……そんな事を思いながら俺はその彼女の方に歩いていく。

病院が近いこのフラワーショップにはお見舞いに向かう人も多く、そういった花を作ることも多いが、なかなかバラを指定してお見舞いに行く人はすくない。

そしてなぜか少し悲し気な表情に、俺はなぜか目が離せなかった。

「リボンはどうされますか?僕のおすすめですと、バラにこちらの……」

その問いに、今度は完全に表情を曇らせ、真っすぐなダークブラウンの長い髪をかき上げた。
はらはらと落ちていく、髪が風になびいた。

「自分への誕生日プレゼントなんです。リボン必要だと思いますか?」

は?

何て言った?

そこまで言った彼女はすぐに謝ると、今にも泣きそうな顔で走って行ってしまった。

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