Short stories
「麻衣ちゃん！ごめんちょっと店番いい？」
珍しく慌てているだろう俺に、一緒に働く麻衣ちゃんは「もちろんです」と手を振ってくれた。

女なんか追いかけたことのない俺が、どうしてこんなことをしているのか全く分からなかったが、俺は追いかけると、彼女の腕をつかんだ。


「ねえ、待って！」

「なんですか？お花はもういいんです……ごめんなさい」

「だから待てって！俺の話聞けよ」
強い口調で言った俺に、彼女は驚いたような顔をした。

しまった！つい……。

「あなた……そっちが本当なの？」
花屋の店長として、優し気な雰囲気を装っていた俺は、内心舌打ちをしつつ彼女の反応を待った。

クスクス笑い出した彼女に、俺は驚いて声を出した。

「なんで笑ってるの？」

「だって、花屋さんも大変だなって。さっきは完全にその雰囲気に騙されちゃった」


「ねえ、あと１時間で仕事が終わるから待ってて！」

え？
なんで俺はこんな事言ってるんだ？

自分でも自分の口から出た言葉に驚いたが、彼女の方がもっと驚いた顔をしていた。

そして、俺の予想外の答えが返ってきた。

「同情？馬鹿にしないで！」
キッと睨みつけられ、俺は初めての経験に呆然とその場に立ち尽くして、踵を返した彼女を見送った。



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