Short stories
我に返って、店に戻ると心配そうな麻依ちゃんの顔があった。

「何か忘れ物とかですか?店長が慌てるなんて珍しい」
ふわりと優しい笑顔が向けられて、さっきの彼女の怒ったような顔が思い浮かぶ。

確かにいきなり声を掛けたのは、まずかったかもしれない。

でも、俺は別に可哀想な誕生日を迎えるからと、同情したつもりなんてない。

じゃあなぜ?

自問自答したがわからない。
俺は本来麻依ちゃんのような、可愛らしい子がタイプだ。

大人しくて、守りたくなるような。

だから、あんな気の強そうな女なんて苦手なはず。

「店長?」
よほど苦虫を潰したような表情をしていたのかもしれない。

心配そうに、俺を見つめる麻依ちゃんにホッとする。

女の子はこうじゃなきゃ。
気楽に付き合えて、癒されればそれでいい。
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