Short stories
閉店時間を過ぎて、麻依ちゃんが帰った後、売り上げの計算をしながら、バラの花に目が止まる。

あの子は結局どうしたのだろう?

一瞬だけ見せたあの笑顔が頭を過る。

どうかしてる……。

母親の後を継いでフラワーショップを始めてからずっと、猫を被っている俺は、誰もいない店でどかっと椅子に腰を下ろすと、自分の髪をかき乱す。

この顔のせいか、女の子には困った事もないが、昔一度素を出した時に『思っていたのと違う!』と言われた。
所詮女は男の容姿や条件しか見ていないと悟ったのはいつだった?


その点、花は裏切らない。
そんな馬鹿な事を思いながら、あの子が買うはずだったバラとかすみ草で無意識にアレンジを作っていることに気づいて手を止めた。


何してるんだか……。
その花束を机の上に置くと、小さく呟く。


「誕生日おめでとう」

本来祝われるための花だったのだからと、少し微笑んだ俺の耳に何かが聞こえた。


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