Short stories
「私に言ってくれたの?」

キュッと唇を結び、照れたような怒ったような表情の、さっきの女の子が店の入り口に立っていた。

「鍵……かかっていなかったから」

言い訳のように言ったその子が、何故か可愛く見えた俺はやはりどうかしたのかもしれない。


「どうしてここに?」
先ほどはこっぴどく待つことを拒否したのに、どうしたのだろう?
そんな疑問を俺は口にした。

「さっきは……ひどい言い方をしたから……」
先ほどの事を仕事が終わるのを待って謝罪に来てくれたのかと、俺は少しうれしくなり立ち上がると彼女に向き合った。


「おめでとう。ほら」

テーブルの上に置いてあった花束を手に取ると、俺はその子に向かって差し出す。

少し躊躇したその子に、俺は問いかけた。

「名前は?俺は村上彰浩、30歳独身」

その言葉に驚いたように、その子はポカンとした表情を見せた。

「聞いてないんだけど」
そう言いながらもクスリと少しだけ笑みを漏らすと、そっとその花束を胸に抱いた。

「きれい……」
小さな声だが、柔らかに響いたその声と表情にに俺は目も耳も奪われた。

「織原……美琴。28に……なった」

「おめでとう。美琴」

サラリと言った俺に、美琴は小さくため息をつくと、言葉を発した。
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