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その声に驚いたように、美琴は反射的に振り向く。

「朝陽……」
呟くように言った美琴の視線の先には、一人の男と、寄り添うようにいた髪の長い女の子。

「朝陽?誰?」
いかにも不機嫌そうに言ったその女の子に、俺と同じぐらいの年だろうか?その男は慌てたように声を上げた。

「いや。えっと」

なんだこいつ。

「ただの知り合いです」
冷たく言い放ったのは美琴だった。

「え?お前それはないだろ?ずっと付き合ってた男に」
なぜかそのバカ男は自分から関係を暴露すると、不機嫌そうな表情を浮かべる。

こいつが美琴を傷つけた男か……。

いかにもサラリーマン風のスーツを着たその男を、俺はマジマジと見つめる。
美琴はというと、キュッと唇を噛んで何かを耐えるような表情をしていた。

それはどういう表情なんだよ?
そう思うも、前の男がなかなかいなくならない事に苛立ちを覚える。

「美琴」
俺は花屋の時の甘い微笑みをうかべ、美琴の名前を呼ぶ。

「え?」
そんな俺に驚いた表情の美琴の手にそっと触れる。


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