お前なんか×××!!!
マンションが見えてきたにも関わらず、楓の姿は見えない。

もう、マンションに着いたのか?

仁の取り越し苦労だったのか。

この角を曲がれば、マンションの玄関が見える。

仁は走る足を緩め、角を曲がった。

その時だった。

マンションの少し手前、少しある暗がりで、男女が揉めている。

仁は迷わず叫んだ。

「楓!!」

その声と同時だった。女が男を背負い投げした。

驚きつつも、仁は駆け寄る。

男は苦痛に顔を歪め、のたうち回っている。

女は、尻餅ついて、固まっている。

仁は、男の上に馬乗りになり、後ろに手を回して、咄嗟に外したネクタイで腕を縛る。

そのままの体勢で、警察に電話し、ようやく女の方を見る。

「おい、ケガは」
「だ、大丈夫…」

女はやはり、楓だった。


…間もなくして到着したパトカーに、襲った男が乗せられる。もう一台の車に、事情を聴くために、二人は、乗り込んだ。

…痴漢は捕まった。これでもう心配するものは何もない。

だが、約束を守らなかった楓に、仁は怒りを露にした。

「だから言っただろ?!独りで帰るなって!」
「…ごめ」

「…まさか、投げ飛ばすとは思わなかったけど」
「…あれは、咄嗟に」

涙目で言う楓を、ため息をついた仁は片手で抱き寄せた。

「…頼むから、言うこと聞いてくれ。心臓が何個あっても持たねぇわ」




私はようやく安心して、仁をぎゅっと抱き締めた。
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