彼・・・私の天使。
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私が結婚に対して夢を持てなかったのは、たぶん両親を見て来たから。
父は事業を興し、それなりに成功していた。生活に困った事は、なかったし恵まれていたんだと思う。でも所謂ワンマンな人で全てが自分中心だった。
母は華やかな笑顔の素敵な人だったけれど、父の為に人知れず苦労をしていた。経済的な遣り繰りも実は母が全てを仕切っていた。
父は、そんな母の姿など気付きもしない人だった。自分のお陰で申し分ない生活をさせてやっている。そう信じて疑わない人だった。
そんな父も肺癌の宣告を受け余命も待たずに、あっけなく亡くなった。最期、苦しむ姿を見せることなく眠るように逝った父。
父の事業は、一人娘の私が引き継ぐ事になり今に至っている。有能なスタッフを残してくれた事には感謝している。
華やかだった母も今は、その面影すらなく重度の認知症と診断され空気のきれいな郊外の老人施設に入れてもらった。母の面倒を看ていたら仕事にならない。
初めは面会にも行ったけれど、私の顔を見ても分からない母を見るのが辛く面会の足も遠退いた。
父が亡くなり、母も元気になって帰って来て、この家を懐かしむ事もなくなったと分かった時、住み慣れた家を手放した。
一人で住むには広過ぎる。庭の手入れだって私には出来ない。思い出のあり過ぎる家具もすべて引き取ってもらった。都心にしては静かな住宅地だったけれど、その静けさが嫌だった。