彼・・・私の天使。
天使のぬくもり
1
車のエンジン音が、まるで子守唄のようで小さな子供みたいに眠っていた。
久しぶりに楽しいお酒だったような気がする。この前、飲んだのは玲子の愚痴を聴いて少々荒れたお酒だったっけ。私まで荒れる必要もないのに、そういう気分って乗り移るものなのかしら。
目を覚ましたのは、どこかのパーキング・エリア? あれっ? 天使が居ない。酔いも醒めたようで、ちょっと寒い。するとドアが開いて天使が戻って来た。
「目が覚めましたか? あったかい緑茶とコーヒーどっちがいいですか?」
「ありがとう。じゃあ緑茶を」
「寒くないですか?」
天使は私に上着を掛けてくれた。いつも思う。この天使、若いのに気が利く。どうして?
「熟睡してた。ごめんね、運転させて寝ちゃって。いびきかいてなかった?」
「かいてましたよ。猛獣乗せてるのかと思いました」
「えっ?」
「嘘ですよ。本気にしたんですか?」
「だってお酒入ってたから、自信ないんだもの」
「大丈夫です。少女のような顔して眠ってましたよ」
ってことは寝顔を見られたってこと? 当たり前よね。隣で寝てるんだから顔くらい見るわよね。
何だか急に恥ずかしくなってきた。私おかしい?
「あんまり可愛かったから、襲っちゃおうかと思いましたよ」
「えっ?」
「冗談ですよ。すぐ本気にするんだから」
天使が大笑いしながら車を出した。
車はまた高速を走り始める。
お似合い。そういえばさっきそう言われた。どう見ても私が年上にしか見えないのに、どういうつもりで言ってくださったんだろう。
でも、こんなに安心して助手席に座って居られるのってなぜなんだろう。
男の子、天使、彼。笑顔の可愛さには負けそうになるけれど、やっぱり男の子だなぁ。恋愛対象ではないのよねぇ。惜しいことに。
彼が好きだって言ってくれたのだって、話しやすいお姉さん感覚でしょうし。
いつか彼が本当に愛する人を見付けるまでは、いいわよね、お姉さんでいても。たまには、こんな風に出掛けても。運転する天使の横顔を眺めていても。
そう自分自身を納得させていた。